ロボット教室の生徒にどんな声掛けをしているか。私が実際にやってきたことを記します。
この便りをお届けしているロボティクスプロフェッサーコース(ロボプロ)のほか、ブロックのロボット教室でも講師をしています。
年長さんから小中高校生までが対象です。年齢層は広いですが、年齢による違いよりも個人差のほうが違いが大きいように思います。
声かけの方法です。
①最初、一人一人個別によく観察します。
話を聴きます。
「やっていること」「できていること」「やろうとしていること」をつかみます。
②私が見たそれをことばにして伝えた後で、
③「サポートしてほしいことは何か」を聴き、質問に答え、アドバイスをし、行動することを促します。
この時、生徒が損得勘定で自分だけ得しようと、欲しいものを言うことがあります。
そういう時には、いつも、どこでも、誰にでも同じ基準になる公正なルールを伝えます。
ズルをしようとしていた生徒も、受け入れてくれるものです。
生徒と状況によっては、「今回特別にだぞ」と念押しして例外対応することもありますが。
大人の側が、その時の自分の感情からその時々で違う基準を使いがちです。
生徒が「公正だな」と受け入れられる、3つくらいのルールを
「いつも、どこでも、誰にでも」使うことが大切です。
これだけです。
その結果かける言葉は次のようなものです。例えば、
「○○君らしくないなあ」
「普段はできているのに、今日はなんでかな?」
「このページのこれ、読んだかい?」
「一緒にチェックしよう」・・・ロボットを預からないで、一緒にチェックして、チェックのやり方を見せる
「いい経験したね」
「やってみないとわからなかったね」
「同じトラブル解決をあと3回やったら、あとは鼻歌を歌いながら対処できるようになるぞ」
「そこまで試してなかった。教えてくれてありがとう」
ポイントは、次の3点です。
①「やっていること」「できていること」「やろうとしていること」をつかむ。
②見たそれらの事実をことばにして伝える。
③それらに沿った、サポートする言葉を伝える。
~~~~~~
詳細に見ていきます。
①「やっていること」「できていること」「やろうとしていること」をつかむ。
素直に、そのまま見ていればよいのです。
が、大人の側に価値観や欲があり、
カリキュラム通りに時間内にやらないといけない、
などと考えていると、できません。
できないのは、大人の側の問題です。
大人が、「ロボット教室は何をするところか」
「学ぶにはどうするのがいいのか」を
わかっていなくて、
考えたこともなくて、
考えようともしなくて、
目先の問題(と思われること)を対処しようとするから、
観察ができません。
(ロボット教室は、ロボットつくりを経験しながら学ぶ場で、
作り方を教える場、
ロボットで遊ばせる場ではありません。
遊びから学ぶことはありますが)
ロボット教室というか、教育の目的が、
「生徒が自分で人生を切り開けるようになるための経験をする」のはずなのに、
「カリキュラム通りの『正解』を伝え、やらせる」ことが「教える」と誤解しがちです。
『正解』を答えると無罪放免されることが多いので、
『正解』を聞いてテキストに書き込んだら終わった顔になっている、
「(テキストを)こなして」いる生徒が多いこと。
「教えて」も、
生徒の側に「学ぶつもり」がないならば、
生徒の頭の中を素通りするばかりです。
『正解』を聞いただけで「わかった気」になった表情をする生徒もいます。
「こなそう」としているのか、
「わかった気」になっているのか、
これもつかみます。
「生徒の経験を学びにつなげるために」と思って観察すれば、いろいろなことをつかめます。
②見たそれらの事実をことばにして伝える。
事実をできるだけ具体的に伝えることです。
観察してわかっていても、ことばにしないと、わかっていることが伝わりません。
もちろん、大人の側の空気感で伝わることもあるでしょうが、
原則的に人間同士では、
ことばやジェスチャーなどで伝えようとしないと伝わらないものです。
伝えない人の言い訳で、
大人はずるくって、
伝えない理由をいろいろ言います。
が、恥ずかしいとか、
「プライドが」とか、ありつつも、
本当のところは伝える経験が乏しく、
伝え方が身についていないだけです。
最初はうまくいかなくても、何度もやるうちにうまくなるものです
が、「最初からうまくいかなきゃいけない」という失敗を避けるために
何もしない選択を大人がしているだけです。
また、生徒の失敗などははっきりわかりますし、
相手の失敗は自分は安心して笑いのネタにできるので、
そちらを話題にしがちです。
本人は笑っていても、傷ついています。言わないほうがいいです。
伝えるのは、
「失敗経験をもとに、どのような工夫をして改善しているか」です。
どれだけ丁寧に観察しているかがカギになります。
③それらに沿った、サポートする言葉を伝える。
どのような言葉がけをすればよいかというと、先に記したとおりです。
①②のステップを来たら、応援のことばしか出てこないのではないですか?
でも、「応援」というと、
生徒の「こんなふうにやりたい」「こんなロボットに変えたい」という
ビジョン(=作りたいもの)を先回りして言う大人の多いこと。
「作りたいもの」を考えて、
ことばにするのは、生徒の大事な権利です。
自分で考えて、決めて、ことばにするから、
結果を引き受けられるのです。
サポートのことばは、シンプルに
「どうしたい?」「どうする?」になります。
そして、「何を手伝ったらいい?」。
もちろん、ロボット教室だったら、
終了時間やほかの生徒にも関わらないといけないので
その生徒だけが講師を独占できないことは伝えないといけませんが。
生徒のこれからの人生では、
「正解」がわからない中で自分としての正解らしきものを探します。
そして、場合によっては続けてやってみて、
場合によっては思い切ってやめ、
多くの場合は工夫して
改善するすべてを、
自分の判断で、
自分が行動して、
結果を引き受けてやっていかないといけません。
これらを、子供時代に、
ロボット教室で経験することが必要だと、私は考えています。
「将来失敗しないように」と、考えるのではなく、
多少の失敗で立ち止まらない思考力と体力をつけるのです。
「(条件を考えながら)どんどん次のバージョンで試していく」のです。
学校や塾、毎日顔を合わす学校や近所の友達の前では、
あまり恥ずかしいことはできないけれど、
少なくともロボット教室だったらできる。
そう思ってもらいたいものです。
~~~~~~
注意したいことがあります。
「工夫して改善するすべてを、自分の判断で、自分が行動して、結果を引き受けてやっていかないといけません。」
と書きました。
これができない生徒がいます。
もちろん大人でも。
生徒の場合は、
「それはお母さんに聞いて」
「どうしたらいい?」
「もういやや、めんどうくさい」。
すべて、「自分でコントロールできる」とは思っていないことばばかりです。
「自己効力感」といいます。
生徒が経験を重ねて、経験値を上げるしかありません。
そのためにはどうするか。
「自分のことだから、自分で決めなさい」と言って、
その通りにさせて、
途中にも、結果にも評価のことばは口を出さないことです。
言うとしたら、「やる気が出る声かけ」です。
これまで書いてきた①~③を実践しましょう。
解説が長くなったので、覚えておいたほうが良いたった一つの問いをお伝えします。
『(私が言わなくても)生徒が自分でわかっていて、
工夫できるのだとしたら、
今私が何を伝えたら、
これからより良い経験を積めるか?』
もっとシンプルに、
『もし私が生徒を本当に信用しているならば、
今このタイミングで何を言ったらいい?』
これは、私が迷った時に実際に自分に問いかけている質問です。
このようなことばを使っていると、
私がむしろ楽になり、
コミュニケーションが気持ちいいものに変わり、
結果としてよい方向に動いていきます。
大人が、生徒のことを「代わりに決めてやっている」ことが多くあります。
決めるのは
生徒の自己効力感を育てるには大切なポイントです。
別の機会にお伝えします。
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