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【「なぜ勉強するのか」と「自分の取扱説明書」】

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[3月に発送した便りです]

「ロボットやプログラミングなら自分にできそうな気がする。おもしろそう」
「思い通りに、ロボットを動かせるようになりたい」

と、はじめたころの自分を思い出しましょう。
そして、何を経験してきたか、いま何をどれだけできるようになったか、指折り数えて自信を持ちましょう。

【「なぜ勉強するのか」と「自分の取扱説明書」】

 「ロボットとは、自分(人間)が考えた動きを上手によい加減で動くようにプログラミングした機械」です。

 だから、プログラミングの「正解」は、自分が決めたらいいのです。

 本「独学大全」を読みました。「独学」とあるので、大人向けではありますが、10代の人たちにとっても役に立つでしょう。「なぜ勉強するのか?」や「どのように勉強するのか?(方法)」を考える視点がきれいに整理されていました。

独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法 読書猿, 2020, ダイヤモンド社
https://amzn.to/38fvsXV

 この本にアイディアをもらって本コラムを書いていきます。

[なぜ勉強するのか]
 勉強には4つの面があります。
 ①やりたい人、必要な人がやればいい、という面(人それぞれ)
 ②技術や科学的に正しいことを次の世代に伝えていくため、という面(社会としては、一子相伝ではなくできるだけ人が多い方が良い)
 ③知識を与え、能力を伸ばし、その人の生きる力を持たせるため、という面(誰もが個人として)
 ④勉強することはおもしろい(誰もが求める)

 解説していきます。

①やりたい人、必要な人がやればいい、という面(人それぞれ)
 「自分が勉強したかったら勉強したらいい。強制されるものではない」です。
 ロボット教室のロボット作りやプログラミングの勉強も、入試や英検などの資格試験の勉強も、「やらされる」ものではなくて「やりたい人がやる」ものです。
 ロボット、音楽、鉄道、ゲーム、おしゃれ(服飾)、生物、歴史、スポーツなどに詳しい人がいます。そういう人が見えている世界を「解像度が高い」と言います。わずかな違いを見つけて味わい、逆に見た目が違うものの共通点を発見します。探求すればするほどさらに詳しくなります。
 そして、探求するときに、古文、漢文、外国語を読み書きできる必要があったり、歴史や地理、物理や化学、天文学の知識が必要になったりもします。「やれ」と言われてやるのではなく、「自分に必要だからやる」のです。

②技術や科学的に正しいことを次の世代に伝えていくため、という面(社会としては、一子相伝ではなくできるだけ人が多い方が良い)
 「この世の中の偉い人、発見をたくさんした人が亡くなったあとも、技術や科学的に正しいことを、次の社会に伝えていくため」です。
 嘘じゃない、本当のことは、小中学校の中学校では教科(主要5教科、9教科など)として伝えられます。内容を絞っても量が多くて複雑で、義務教育の期間が9年しかないので、教科書に詰め込み、先生が一方的に話すことになります。
 「必要最低限これだけを教えよう」としたものが決められていますが、すべての生徒にすべての内容について興味を持ってもらって、ストーリー化して理解しやすく伝えるには、時間が足りません。ただし、②の面では、学校の授業を受けている全員が理解できなくても構いません。技術や科学的に正しことがわかっている人が「多ければ」いいのです。このような社会は、フェイクに惑わされにくく、安定した社会になります。
 それでも、過去のことで言えば、邪馬台国の位置や聖徳太子が実在したかなどの例でわかるように、不確かになっていきます。伝えきれないものです。
 また、「勝者が残したいものが歴史になる」「力のある者が言うことが正しい」となりがちです。歴史や地動説などでこれまで同様のことがたくさんありました。勝者に不都合な事実が書かれた本は焼かれ、教育がゆがめられます。でも、その世界の中ではそれが「正しい」ことです。ですから、知識や情報を知るだけではなく、「正しいことの見つけ方」を学ぶのも勉強です。

③知識を与え、能力を伸ばし、その人の生きる力を持たせるため、という面(誰もが個人として)
 「教育とは、知識を与え、個人の能力を伸ばすこと」。
 つまり、特に子供たちが、自分の人生を自分で決めて、自分の力で生きていくために、必要なことを教えて、身につけてもらうことが目的です。
 10代までの若いうちに、伝えておきたい必要なことは、実際には膨大にあります。「生きる力」を使って生きてもらうためには早い方がいいので、「教えるのは10代までの若いうちに」となります。伝えたい内容の中から、選びに選んだ最も大事なことが、教科書になっています。それでも量が多いので、効率的にしないといけなくて、その一つのやり方が『学校』です。

④勉強することはおもしろい(誰もが求める)
 人は、「知る」ことにワクワクするし、勉強することはおもしろいのです。

 念のために書いておくと、①②③④ともに全然違う系統の話をしています。『学校』についての書き方が、ずいぶん違うとお感じでしょう。学校は「いろいろな意味で」便利だし、効率的に学べる場所です。
 そして、「誰が」「何を」「どのように」「どこまで」も人によって違います。人の話を聴くときには、「なぜ勉強するのか」のどれについて話しているか確認しましょう。
 学校の授業や行事では、「みんな一緒に」「力を合わせて」となりがちですが、その方が自分に合うと思ったらそれを採用したらよいし、「1人で」がいいならそれでもいいし、「それに関心ある人と一緒に」とプロジェクト的に学校の中や外でやってもいいと思っています。
 大事なのは、「学びたい」という気持ちを忘れないこと、フタをしないことです。

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[自分の取扱説明書]
 もう一つ別の視点もお伝えします。「自分の取扱説明書」です。
 これを知ったら、効果がある勉強方法を選べます。知らないと、がむしゃらに丸暗記をするしかありません。

 最初にお断りしておきます。あくまでも「こう考えたらうまく説明できる」という理論です。

 二重過程説(Double Process Theory):人の理解の仕方や行動には、大きく分けて2つのシステムが働きます。

 システム1:反応する。本能的。迅速で直感的に働く。具体的。今ココ(今、この時)。目の前のことや現象に手を動かして対処、考えないので低労力。うまくいった経験は続け、失敗したことはやらない。繰り返し起こることの重要性を高いと判断する。
(利点)速い。省エネ。無意識的で自動的。
(欠点)楽な方を選ぶ。新しいことや変化に対応できない。条件反射的な反応パターンができるようになるだけ。1回失敗したら、2回目をしない。

 システム2:考える。意識的に判断され、処理が遅く、熟慮的に働く。「もし~だったら」など仮定や抽象的、ステップを考える。ことばを使う。高労力。新しいことに対処できる。理由や条件を見つけ出す。
(利点)仮定した判断ができる。新しいことに対処できる。ほかの人に、また時代を越えて伝えられる。
(欠点)遅い。行動までの時間がかかる。消費エネルギー大。

 「消費エネルギー大」とは、「大変」「面倒くさい」ことで、「できるだけ避けたい」と感じることです。
 人間はそもそも、赤ん坊からはじまります。赤ん坊の時は、システム1(「今ココ」のみ。成功したやり方をやるだけ)で学んでいきます。そして、システム1だけでどこまでも行く人がいます。
 勉強が得意でない人は、赤ん坊の時の「システム1」だけで何とかしようとしているのではないでしょうか?「丸暗記」「定期試験直前に対処する」は、システム1(今ココ)です。
 システム2があることを理解させてもらっておらず、システム2を使う発想がそもそもないし、面倒くさがってやろうとしないから、使い方を知らないし、トレーニングもしていないのです。

 コンピュータが高性能になり、システム1の部分は、人の代わりができるようになってきました。ですから、私たちがコンピュータを使って人しかできないことだけに集中するにしても、人間のシステム1,2の使い方は変わりません。
 システム1の判断は、だいたい合っているし、迅速だし、楽だけれど、
 システム2を使って「ちょっと待てよ」と考えたり、考える能力を身につけることが大事です。

 朝起きられないのも、勉強中にゲーム機に手が伸びるのも、ダイエットが失敗するのも、「システム1」が強力だからです。
 「システム2(意思の力)」で何とかしようとしても、消費エネルギーが大きいので「システム1」が優先されてしまいます。
 だから、自分の行動~結果を変えるには、「システム2」の力で「システム1」の方向性を決めてやって、

1.ごほうび型:朝起きるなら、ジョギングして走っている途中のところで好きと思っている人と出会えるなど、寝ているよりも価値があることを設定する。
2.スモールステップ型:ゲーム機に触らない時間を1回1分ずつ長くしていって、成功体験を重ねる。
3.習慣型:ダイエットなら、「今日は特別に破ってもいい」という特例を作らない。少なくとも3か月続ける。
4.逆説型:ゲームを必ず何があっても毎日3時間することを強制されると、逆にゲームにおもしろさを感じなくなる。

 など、「システム1」に強力な力を発揮してもらうよう考えましょう。1人1人特性が違うので、自分に合った方法を見つけるために試行錯誤してください。
 最初に紹介した「独学大全」には、これらのほかにも勉強の仕方の具体的な方法がいくつも挙がっていました。興味を持った方はご覧ください。

 「人の使用説明書」から見た学校の教育の目的は、システム2(ことばを使った思考で、論理的に)を使う経験をして、体験を積んでトレーニングすることです。
 学校の授業形式でないと、生徒たちはシステム1のみで対処しようとします。大人にとってもシステム1の方が楽です。本能的にシステム1を使います。
 学ぶ生徒にとっては教科書の量が多いと感じる人がいるかもしれませんが、必要最低限の選ばれたものです。知識を与えて科目を越えて知識をつないでいったり、お互いに使ったりすることで、トレーニングになります。学校は、システム2を身につけるにはいい場所です。そう思って、授業を受けてみたらどうでしょうか?
 でも、学校とか、先生とか、同級生と発想やペース、安心できる環境の感じ方が違っていて合わないこともあります。教科書の内容が、簡単すぎる、難しすぎると感じることもあるでしょう。
 そんなときには、信頼できる人と相談しながら、「自分に合ったシステム2のトレーニング」をしていきましょう。
 「何をやったらいいですか?」とすべて指示してもらって、その中から楽そうなのだけやるような、システム1だけを使って生きるのは、あまりにもったいないです。「何をやったらいいか?」をきちんと順を追って考えるのも、システム2です。[なぜ勉強するのか]の「①やりたい人、必要な人がやればいい、という面」で書いたように、「学びたい人がやればいい」ものだし、視点を変えると「誰でも学びたいことが何かある」とも言えます。「何を学びたいか」を見つけて行動するのは、自分への自分の責任です。「何をやったらいいか?」は、システム2を使って考えましょう。

 学校の授業を受けることは、自分の意志や気持ちに関係なく「やらされている」のだとしても、ここまで書いたような背景があるのです。
 自分を無にして座っているのはもったいないです。
 「自分のための勉強」は自分らしく生きるためのスキルや力を身につけるためのものです。「勉強」は、自分のものです。


※知識と記憶と計算について
 最近は、『知識と記憶と計算』はコンピュータに任せればよくなってきました。
 学校などで勉強する内容を記憶中心から変えていく必要があります。一方では、「発想は、自分の記憶から生まれる」ものです。記憶することも大切です。
 また、コンピュータが出した結果や検索結果が間違っていないか、もともとの考え方が間違っていなかったか、フェイクではないかなどの判断や、計算式を立てるのは人間の役割です。コンピュータがする計算方法のチェックや、出てくる結果の精度を上げるのも人間です。コンピュータは、データが消える、暴走するのも想定しておく必要があります。だから、「任せておけばよい」というものでもありません。
 「コンピュータの結果を無条件で信じる」「教科書を無条件で信じる」人が多いような気がしています。少なくとも誤字など間違っている可能性はあるので、「何を信じたらいいのだ!」とシステム1で嘆くのではなく、システム2でチェックするのに気づくことと方法を身につけておきましょう。信じたあとの自分の行動の結果は、自分の責任です。

(学びラボ 若狭 喜弘)

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